写真ってすげえわ…腐食レールのスクープに写っていたもの 北海道新聞カメラマンが撮ったのは地方の窮状だった

こんな記事です:腐食レールを捉えたスクープ写真が新聞協会賞に。/貨物列車脱線事故の原因だけでなく、地方鉄道の窮状まで浮かび上がらせた一枚。/北海道新聞カメラマン・野澤俊介さんが語る、スクープ写真が生まれるまで。
アトヨミ編集部 2026.04.06
誰でも

たった一枚で、事故の原因から、その背景にある地方の実情も浮かび上がらせてしまう。そこにあるのは、刹那的なアテンションに消費されるショート動画には真似できない凄みです。 北海道新聞のカメラマン・野澤俊介さんが撮影した、貨物列車の脱線事故の現場をとらえたスクープ写真。それが撮れたのは決して偶然の産物ではありません。一瞬のシャッターチャンスのため、チームで地道に情報を集め、入念に下見をする。事前の準備と現場での瞬発力。スクープ写真が生まれるまでを聞きました。

東スポ時代に鍛えた張り込み

2024年11月に北海道森町で起きたJR貨物列車脱線事故現場で北海道新聞カメラマンの野澤俊介さんが撮ったスクープ写真は、衝撃的な腐食レールの断面をとらえています。

今にも折れそうなくらい細くなっているレールの腹部の様に、鉄道関係者は驚きました。なぜなら、通常、レールが腐食するのは腹部ではなく地面に接する底部だと考えられていたからです。これまで点検で重視されてこなかった腹部に原因があった事実を突き付ける写真は、全国の鉄道事業者の点検体制に影響を与える重要なものになりました。

そんなスクープ写真を撮った野澤さん。実は横浜市生まれで最初に入った会社は東京スポーツ新聞、「東スポ」でした。

「大学の時に新聞部にいて、そこで大学スポーツなどの写真を撮っていました。スポーツに携わる仕事したいと思って、それで東スポに入ったんです」

野澤俊介さん(写真:本人提供)

野澤俊介さん(写真:本人提供)

東スポではプロ野球の北海道日本ハムファイターズ担当として札幌へ。半年間、住み続ける中で北海道がどんどん好きになり、転職を決意。2012年に北海道新聞にカメラマンとして入社します。

「東スポ時代は芸能人を追っかけて張り込みなんかもやりましたね。今回のスクープには、そんな経験もいかされたと思います」

張り込みをするには、入念な取材が必要です。住所を教えてくれそうな人と知り合いになり信頼関係を築く。そして張り込む。シャッターチャンスは一瞬。いつそれがやってくるかわからないから、早い時間から待機していなければいけません。数時間、場合によっては半日以上、張り込みをすることも珍しくありません。

これらの準備は、スポーツ新聞も北海道新聞のような一般紙も変わりません。単にシャッターを押すだけではない。そこに至るまでに、気の遠くなるような準備と努力と根気を注ぎ込む。貨物列車の脱線事故でも、付近の民家をまわって敷地内で撮影させてもらえるよう交渉するなど地道な準備をしていたそうです。

ファインダー使えず連写連写

事故が起きたのは2024年11月16日の未明。野澤さんが現場に着いたのは朝でした。

「その日の夕方、札幌で取材をしている記者から、腐食が原因ではないかという共有がありました」

事故現場にいた野澤さんは、レールの状態を入念に確認します。

「レールの側面が紫色に変色するほど腐食していたんです。レールの正面から断面を捉えることができれば、より深刻な状況が伝わるのではないかと考えました」

下見を踏まえ、翌朝のレールの撤去作業の取材に臨んだ野澤さん。午前8時に再び事故現場に入ります。それから2時間後の午前10時、重機がレールを持ち上げた時、そこには今にも折れそうな断面が。低いアングルから、とっさに撮影。さらに望遠レンズに取り換え、腐食部分のディテールがわかるくらいにまで迫ります。立て膝の姿勢で低い位置にカメラを構えるのでファインダーは直接、覗けない。液晶をかすかに視界に入れる格好で連写しました。

「普通は望遠じゃなく広角レンズを使う場面ですから、他社のカメラマンにばれないか冷や冷やしました」

すぐに望遠レンズをしまい、本社に送信。そこから事態が動きます。

「え!という反応で、さっそく鉄道担当の記者が調べてみると言ってくれて、識者にも見せて解説をしてもらう流れになりました。写真から話が進んでいく。初めての体験でした」

ネット時代に示した写真の力

東スポ時代は通勤が大変だったという野澤さん。1時間半の電車通勤から開放されるというのも移住を決意した理由だったと明かします。

そんな車社会の北海道で課題になっているのが鉄道網の維持です。国鉄が民営化されて生まれたJRですが、北海道のような地域では人口減少とモータリゼーションによって鉄道の利用者が減少。経営状態の悪化によって、線路を維持するための保線に人手や予算が十分あてられない状況が続いています。

野澤さんの撮影したスクープ写真は、そんな地方の鉄道網の厳しさも伝えているのです。

「貨物列車の脱線のような事故は、けっして北海道だけの問題ではありません。インフラ施設の老朽化は、全国各地で発生しています。さらに事故が起きたのは海線と呼ばれる路線で、北海道の農産物を本州に届けるには、なくてはならない線路。東京の人も無関係ではないんです」

鉄道会社を追求して終わりにはしない、というかできない。野澤さんの落ち着いた口調からは、逆に問題の深刻さが伝わってきます。

「事故を起こしてしまった責任はある。そうはいっても、鉄道会社にはお金もないし、保線作業の現場は離職率も高い。事故後は、そういった背景も鉄道担当の記者が記事にしてくれました。みんなで鉄路の問題を考えていく。そういう方向に進めていきたいと思っています」

野澤さんのスクープ写真が示したのは、ネット時代における写真ならではの力です。SNSの細切れな情報が氾濫する時代、いきなり長文の記事を読んでもらうのは正直、難しい。かといって、鉄路の維持の難しさを一言で伝えるのも困難。クリック数だけを狙うなら過激なタイトルの勝負になるけれど、それはできない。

そんな時、写真は一瞬で何が起きたのかを伝えられるわかりやすさがあります。同時に、写真一枚の背景にある膨大な取材と準備の蓄積も届けられる。その〝落ち着いたインパクト〟をきっかけに腐食の原因、鉄道会社の実情への理解が進む。読者は自然な流れで物事の全体像を把握することができます。

「動画のようにタイムラインに流れてしまわない。大事な情報をしっかり止められる。あらためて写真の大切さを再確認しました」。

野澤さんは、ちょっとうれしそうにそう振り返ります。

(写真:本人提供)

(写真:本人提供)

「いかようかん」でいいね賞

事故から1週間後、野澤さんは撮影の裏側を振り返る記事を書きました。

「自分から書こうと思ったわけではないんです。デジタルの担当者にすすめられたのですが、マニアックな話だと思ったのでそんなに面白く書けるか自信がなくて。カメラマンがこういった記事を書くのも前例のないことでした」

ところが野澤さんが書いた編集後記は多くの人に読まれ、北海道新聞のサイト内のランキングでも上位に入るほどビューを集めました。

「私たちは、日々、正確な報道のため取材を重ねています。それを読者に理解してもらうために、取材した記者自身が、取材のプロセスなどその記事の裏側をていねいに伝えることは大事なんだと実感しました」

野澤さんのスクープ写真は、日本の新聞業界で最も権威のある賞と言われる2025年度の新聞協会賞を受賞しました。同じ年、アメリカのトランプ大統領が選挙中の演説会場で狙撃される瞬間をとらえた映像もある中、人口1万3千人の町で起きた脱線事故が選ばれたのです。

「ニュースの大小だけでなく、記者としての姿勢を評価してくれたことは、地方紙のさらに支社にいる身として、励みになります。野澤が取れるなら私も、と若い人に思ってもらえたらうれしい。今まで空振りばかりしてきましたが、それは無駄ではなかった。だから、これからもしっかり振り続けていきたいと思います」

スクープ写真を撮った後の野澤さんですが、かつて青函航路を結んだ高速船「ナッチャンWorld」の旅立ちや、列車事故が起きた森町で見られるオーロラ、五稜郭のライトアップなど、引き続きその土地ならではの情報発信に携わっています。

函館報道部の公式X(@tamate_doshin)で企画された「わたしのおすすめ必需品」を紹介し合う企画では、2026年1月16日に野澤さんが投稿した、はこだて柳屋さんの「いかようかん」が、227いいねを獲得し、最多いいね賞を獲得しました。

インパクトのあるビジュアルと、コーヒー餡という意外な取り合わせ。函館らしさを全国に伝えるにはもってこいのアイテムです。いかようかんの魅力をいかんなく伝える写真のクオリティーの高さは言うまでもありません。地元愛あふれる密着度で取材に駆け回る野澤さんは相変わらずのようです。

(奥山晶二郎)

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